2019年5月に日本整形外科学会と日本腰痛学会の監修で腰痛診療ガイドライン2019改訂版が発刊されました。これは2012年に発刊された腰痛診療ガイドラインから7年ぶりの改訂となります。以前のガイドラインが出た時、マスコミにも大きく取り上げられたのが腰痛の原因の75パーセントは原因不明(非特異的腰痛)であるという海外の論文を取り上げ、それがガイドラインでも取り上げられたことです。この論文は実は整形外科医ではない家庭医の診断であり、それに反論する論文として山口県で行われた腰痛スタディも紹介されています。改訂版では腰痛の病態には、腰椎から脳に至るあらゆる部位で様々な病態が関与しており、非特異的腰痛は未確立の疾患群を詰め込んだ症候群であり未だ検討の余地が残るとされています。また腰痛の原因として脊椎由来、神経由来、内臓由来、血管由来、心因性、その他に分類され、特に悪性腫瘍(原発性腫瘍や癌の転移など)、感染(化膿性脊椎炎や結核性脊椎炎など)、骨折(骨粗鬆症性など)、重篤な神経症状を伴う腰椎疾患(腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などの神経麻痺など)を鑑別する必要があることも記載されています。また薬物療法に関しても2012年以降に出た薬物も含めて検討されており、急性腰痛(発症から1ヶ月以内の腰痛)、慢性腰痛(3ヶ月以上経過した腰痛)、坐骨神経痛(下肢痛を伴う腰痛)に関して推奨される薬剤とエビデンスの強さを記載されています。急性腰痛に関しては非ステロイド性消炎鎮痛剤、アセトアミノフェン、弱オピオイドが、慢性腰痛ではセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤、弱オピオイドが、坐骨神経痛には非ステロイド性消炎鎮痛剤、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤、プレガバリンが推奨度が上位でした。注意すべき点として、診療ガイドラインとは、科学的根拠に基づき、系統的な手法により作成された推奨を含む文章で、あくまでも患者と医療者を支援する目的で作成されていますので必ずしもこうあるべきだ、ということではありません。臨床現場における治療の意思決定の際に、判断材料の一つとして利用し、このガイドラインに示されるのは一般的な診療方法であるため、必ずしも個々の患者の状況に当てはまるとは限らないことが明記されていますので私たち医師は個々の患者さんの状態に応じて治療を決定していくことになります。
第68回 腰痛診療ガイドライン2019改訂版
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