第54回 テキストネック症候群

今回はテキストネック症候群を紹介します。 2015年フィッシャーマン博士(カイロプラクター)が提唱した言葉で、スマホやタブレットなどを頸部を前方に突き出したまま(フォワードヘッド肢位や亀の首肢位と言われます)長時間操作することで生じる反復されるストレス障害です。今や18~49才の79%がスマホを所有し、一日2時間使用していると言われています。特に小児、若年者に増加しており、21世紀病や現代病とも言われています。頭部は10~12ポンド(5~6kg)の重量があり、頚椎が15度屈曲すると、27ポンド(約14kg)の重さに感じられる。脊椎へのストレスは屈曲の角度により増加し、60度で60ポンド(約30kg)になります。進行すると、頸部痛、肩こり、頭痛、上肢への放散痛、筋力低下、胸椎の後弯(いわゆる猫背)、呼吸が浅くなり、肺機能の低下の原因になります。2017年の論文でもX線検査で頚椎のアライメント(配列)の変化(通常前弯と言って前に弯曲しているが、むしろ後弯する)が認められることや、脊椎外科医師がこのような小児の将来には手術が必要になる可能性も示唆しています。また、座位より立位でのスマホ使用は頸部にさらなる負荷を生じます。治療は予防として長時間のスマホやパソコン使用を控えること、目と水平な自然な位置にモニターが来るようにすること、姿勢を頻回に変える、ストレッチ、顎を指で押して頭部を後方移動するセルフエクササイズがあります。長時間下を見る姿勢を避けるため、使用者に警告することができるアプリを利用したり、スマホを操作している時の姿勢を友人に撮像してもらい、待ち受け画面で使用することで休憩を取ることを促すなどの自己防衛もあるそうです。
さて、当院ではこのような原因を含めて受診された頸部痛、肩こりの患者さんには主としてマッケンジー法で評価、治療します。私が診察してレッドフラッグ(治療の対象にならない病状)を除外したのちに理学療法士に姿勢の指導と反復運動によって痛みや可動域が改善する方向が見つかれば、セルフエクササイズとして自宅や職場で実践してもらうことで治療します。もちろん全てマッケンジー法で良くなるとは限りませんのでトリガーポイント注射や他の方法が有用なこともあります。このほかにも治療法はありますので、お悩みの方は まずは最寄りの整形外科に相談することをお勧めします。

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。