山口経済レポート連載記事 – ページ 3

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山口経済レポート

院長が2013年から山口経済レポート(http://www.ykr.co.jp/index.html)に毎月掲載している過去のコラムを掲載しています。腰痛を中心に様々な整形外科の疾患や情報を発信していますので順次アップしていきます。

コロナ下で外出自粛で運動不足になり体重増加した方は私だけではない?と思いますが、子供達も例外ではないようです。以前子供のロコモ(運動器機能異常)についてお話ししましたが2018年のスポーツ庁の調査でも体の硬さ(立位体前屈で手指が床に届かない)、バランス感覚の低下(片足立ちの保持ができない)など指摘されていました。これに伴い転倒して両手関節の骨折を生じたりするケースも報告が増えました。(当院でも今まで2人いて両腕にギプス固定行いました)臨床整形外科学会が今年7-8月のコロナ下に行った小中高校生817名のアンケート調査で体力がなくなつた」と回答したのは、小学生で35.3%、中学生で44.1%ヽ高校生で55.1%で、「体重が増加した」と回答したのは、小学生で36.9%、中学生で37.4%、高校生で34.9%という結果でした。痛い部位での回答で最も多い部位は小学生が足・足関節で4割超、中学生と高校生は首、腰で3割を超え、中学生は足。足関節も3割弱ありました。

また、国立成育医療研究センター「コロナ×こどもアンケート」の第1回調査では、テレビやスマホ、ゲームを見ていた「スクリーンタイム」が1日4時間以上の子どもが全体の31%でした。小学生から中学生にかけての成長期は、骨が急速に伸びることで周りの筋肉や腱は常に強い緊張状態にあり、そのために身体の柔軟性が低下しやすく、特に男子に顕著に現れます。これにコロナによる長期休校による運動不足の後、急に運動量が増えたことで、スポーツ以外での外傷も起きています。中高生に一肩こりや腰痛が多いのは、悪い姿勢で長時間、スマホやゲームに熱中することも原因の一つですので、コロナ下にスマホの時間が増加したことの功罪は少なくないと考えます。子供の運動器異常を早期発見するために学校で側弯検診、運動器検診(腰、肘、肩など)が行われていますので異常がある場合は整形外科へ受診してご相談ください。

 

脊髄損傷による四肢の麻痺は治らない疾患と以前は言われて、手術をするのはリハビリテーションを早く行うため、と割り切って脊椎外科医は損傷した脊髄を直すのではなく周りの脊椎を金属で固定する手術を行ってきました。しかし最近再生医療の進歩とともに脊髄損傷の再生医療も研究が進み、実用化されたものや実用化直近のものがあるので紹介します。急性期の脊髄損傷に使用可能であるのが、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)HGF(肝細胞増殖因子)を用いた神経保護法で、受傷後2−3日で使用でき、現在臨床試験中です。亜急性期脊髄損傷における再生医療としてはMSC(ヒト自己骨髄由来関葉系幹細胞由来)の静脈内点滴治療法で札幌医大で201812月から臨床応用(条件・期限付き承認)が始まっています。またiPS細胞由来神経幹細胞の細胞移植は慶應大学で臨床試験最終申請中です。再生医療には高額な費用がかかり、安全性の面でもハードルが高いのですが、脊髄損傷の再生医療は実用化が始まり、脊髄損傷による手足の麻痺が再生医療により改善することは、手術される患者さんにとっても朗報ですし、これから益々注目されている分野です。

膝や股関節の軟骨がすり減って痛みや日常生活に支障をきたす変形性膝関節症や変形性股関節症は日本のみならず世界的にも多い疾患です。世界疾病負担研究のデータを用いて世界195カ国における1990年から2017年の変形性膝・股関節症の疫学的検討が行われた結果、2017年の有病者は約3310万人で新規発症は約1490万人と推計され、1990年より有病率は9.3%、年間発症率は8.2%上昇した、とする報告をしました。国別には米国、サモア、クウェートが高く、北朝鮮、マダガスカルが最も低かったそうです。日本はというと4400-4800万人と推定され北米やアフリカよりも低く、欧州やアジア諸国よりは高いという結果でした。2014年の厚労省国民生活基礎調査では痛みを有する関節症が1560万人と推計されていますので今回の結果はそれよりもかなり高い結果となっていますが2009年の日本での研究ではX線検査による関節症の有病率が2530万人という結果ですのでこちらに近いと考えられます。性別では有病率と発症率ともに女性に多く、有病率年齢とともに上昇しますが、発症率は男女とも60−64才で多い結果でした。高齢化、女性、肥満が危険因子であり、ヘルスケアの改善とともに変形性関節症の早期発見・早期治療が必要であると述べています。変形性関節症の診断は整形外科が専門ですし、治療は症状に応じて減量、運動療法、投薬、関節内注射、装具療法、手術的治療など様々ですので整形外科にご相談ください。

 

参考文献:Ann Rheum Dis. 2020 Jun;79(6):819-828

     : J. Bone. Miner. Metab.,  2009,  27(5),  620

勤務医で脊椎外科医として一日中手術場に入って手術していたのは8年以上前になりますが、手術中は集中しているときはアドレナリンが出ているので特に苦痛は感じませんでしたが、喉が乾くとマスク越しにストローで水をのませてもらったりしたり、立ちっぱなしがきつくて途中で座らせてもらったりしたことが今となっては懐かしい思い出です。最近の報告で外科医が手術後に頚部痛が62%増加し、腰痛が45%、背部痛が43%という報告がありました。以前このコラムでテキストネック症候群(いわゆるスマホ首)について紹介した際にも述べましたが頚椎が15度屈曲すると14kg60度屈曲すると30kgの重量が頚背部にかかるのでこの研究の結果もうなずけます。手術野が狭いところで下を向いて手術をせざるを得ない外科医ほど首腰への負担が多いということになり、内視鏡手術の場合、モニターを見ながら手術ができるのでその負担が少ないので、医学技術の進歩は外科医の肉体的負担を少なくするという意味においても今後ますます必要となることでしょう。やはり外科医も姿勢への意識や頚椎腰椎のセルフエクササイズは必要であると外科医を引退してから改めて思います。

 

参考文献  J Am Coll Surg(2020; 230: 554-560)

ゴールデンウィークはコロナの影響で皆さん、家でステイホームで自粛した方がほとんどだと思います。私もクリニックでの残務以外はほとんど家にいて読書やテレビを見て過ごしました。家にいるとつい寝そべったりくつろいだ姿勢で読書やテレビを見たりすることが多くなりますが、実はくつろいだ姿勢を長時間続けると、案外腰痛や肩こり、頚部痛の原因になることに注意すべきです。座位姿勢において腰椎後弯(腰が丸くなる)と骨盤後継を長時間持続すると椎間板内圧が高まり、腰背筋の緊張と血流障害が生じますし、その姿勢から急に立ち上がったりした際には急性腰痛(ぎっくり腰)にも気をつける必要があります。また頭部の重量は5−6kgですが頚椎が15度屈曲すると、約14kg60度で約30kgの重量として感じますので肩こり、頚部痛の原因になりうることは容易に想像がつくと思います。これを防止するためには1時間に1回は立ち上がって背伸び(腰をそらす)したり、頚を前後に動かして休憩することが有用です。足を組む事も決して腰痛には有効ではなくかえって腰痛を増強する事もあります。横向きで片肘をついた姿勢や仰向けで枕を高くして長時間テレビを見る姿勢も頚部痛、肩こりや腰痛の原因になるので長時間は禁物です。また家にいる時間が長いとどうしても運動不足になりやすいので家の周りを散歩したりする有酸素運動や屋内であればスクワットや片足立ちといったロコモ体操も有効ですのでぜひ実行してください。少し早足で腕を後ろに意識してふって歩くと運動強度は上がります。また決して11万歩を目指す必要はなく、高齢女性では4400歩でも死亡率が低下した、という論文もあるので自分のペースで歩くことが長続きするコツです。コロナに負けずステイホーム生活をエンジョイしましょう!

1月、2月に山口大学主催の慢性疼痛診療研修会の講師を担当する機会があり腰痛の評価の講義をしましたが、その際に診断エラーと認知バイアスについて調べる機会がありましたので紹介します。診断エラーとは、診断の遅れ、誤り、見逃しのことで、2018年に学問として成立しているそうです。救急の現場では初診時に10%の診断エラーがおきている可能性が指摘されています。診断エラーの原因として状況要因(医師のストレス、診療の時間帯、勤務形態、設備、人手)、情報収集要因(情報収集過程と解釈に問題がある)、統合要因(直感が医師に与える負の影響)があると考えられています。最近注目されているのが統合要因である認知バイアスです。医師の診断は早い思考の直感的診断と遅い思考の分析的診断がお互いに相補的に使い分けられながら的確な診断に結びついています。思考の歪みを起こす認知バイアスとは診断エラーに至る場合の直感のことで、1つの診断に6つ以上の認知バイアスが影響しているという報告もあります。You tubeの動画にもアップされているselective attention test(バスケットゴリラ)で白シャツを着た人がバスケットボールをパスする回数を数えるよう支持された動画にゴリラが写り込んでいるのですが、私もはじめ見たときは全くゴリラに気づきませんでした。(これを非注意性盲目といいます)疲れている時や時間に焦っているときは一番楽に処理できる思考に引っ張られやすくなり、本能的感情で判断が左右されたり、想起しやすいものを考えてしまったり、他の鑑別疾患を考慮することをやめてしまうなど様々な認知バイアスがあります。このように一度認知の歪みが発生するとその思考パターンは修正が難しく、診断エラーに直結しやすいことがわかっているとのことですので、私たち臨床の現場で働く医師は経験に基づく直感を大事にしつつも冷静に振り返る思考が必要でありますが、診断エラーはゼロにならないことを自覚しつつも日々反省する毎日です。

外来で小児の診察で付き添いの両親、祖父母からよく聞かれるのが「成長痛ではないでしょうか?」という質問です。成長痛とは幼児期から学童期の小児期にみられる生理的な四肢(特に下肢)の痛みで、夕方から朝方にかけて(特に夜中)突然下肢痛を訴え泣きだすこともありますが、自然に収まり翌朝は何事もなかったように元気になります。このような症状が続くと親は心配になりますので整形外科や小児科を受診されます。4−6歳に多く、幼児の3人に1人に見られるという報告もあります。19世紀にはリウマチ熱の部分症状と言われていましたが1939 Shapiroが器質的疾患を除外した原因不明の疾患を成長痛と報告しました。1951 Naish が関節のみに限定されない四肢の痛み、少なくても3ヶ月の既往を有する、睡眠などの日常行動を妨げるに十分な痛みといった特徴的疾患として定義しましたが、あくまでも除外診断になります。疲労、下肢・足部の変形などは関連性がないとされ、疼痛部位をさすったり温めたりする積極的スキンシップが効果的であること、筋肉のストレッチを行うと痛みが収まりやすいことから、痛みの閾値が低い子供が訴える筋肉の牽引痛とする考えもあります。

外来に受診されたら、まず痛い部位を診察して腫れや圧痛、関節の可動域、

歩容を確認し、必要に応じてX線検査、超音波検査を行います。骨折、感染(骨髄炎)、腫瘍、股関節炎、若年性関節リウマチ、血液疾患などが疑われる場合にはMRI検査や小児科紹介を行います。成長痛と診断した場合には両親には痛いときにスキンシップしてあげることをお勧めしていますが、MRI検査をお勧めする場合もありますのでまずは整形外科に相談してみてください。

フレイル(虚弱)とは、日本老年医学会が2014年に提唱した名称で老化に伴い、身体の予備能が低下し、健康障害を起こしやすくなった状態です。健常な状態と要介護状態の中間の状態で、筋力が衰える「サルコペニア」という状態から移動機能が低下した「ロコモティブ症候群」を経て、さらに生活機能が全般に衰える「フレイル」となり要介護状態に至ると言われています。

フレイルは動作が遅くなったり転倒しやすくなったりする「身体的要素」、認知機能の障害やうつ病などの精神や心理的な問題を含む「精神的要素」、そして独り住まいや経済的な困窮などの「社会的要素」の3つの要因が関与していますが、最近の論文で身体的フレイルのチェックシートが開発されました。疲労感(気分が沈み込んで、何が起こっても気が晴れないように感じましたか/何をするのもほねおりだと感じましたか…1.はい・0.いいえ)、筋力(階段を手すりや壁をつたわらずに昇っていますか…0.はい・1.いいえ)、有酸素能力(1kmぐらいの距離を続けて歩くことができますか…0.はい・1.いいえ)、活動量低下(1日のうち、座っている又は横になっている時間は、起きている時間の80%以上ですか…1.はい・0.いいえ)、体重減少(6カ月間で23kg以上の体重減少がありましたか…1.はい・0.いいえ)の項目の「はい」の合計が3点以上がフレイルである可能性が高いとのことですので特に前期高齢者の方で当てはまる方は要介護予備軍として早期の対策(リハビリの介入)が必要です。リハビリの基本は足腰の強化で特につかまり立ち、足踏み、スクワットは手軽にできますが間違ったやり方では膝を痛めることもあるのでわからない場合には整形外科にご相談ください。

骨粗鬆症は閉経後の女性や高齢者男性に生じることは以前述べましたが、妊娠出産前後に骨粗鬆症が生じることはあまり知られていませんので紹介します。妊娠中は胎盤から大量のビタミンDと女性ホルモンであるエストロゲン分泌されることで骨量を維持しますが、妊娠後期、授乳時にカルシウムの需要が増加し、ビタミンD、エストロゲン分泌低下により、腸管からカルシウムの吸収が低下して急激な骨量低下が生じます。(1ヶ月で2-3%低下すると言われています)この時期(妊娠後期や分娩後半年)に急性腰痛や背部痛で受診される女性で脊椎圧迫骨折が生じることがあり、これが妊娠授乳関連骨粗鬆症です。治療は脊椎骨折にはコルセット、安静ですが、骨粗鬆症治療には断乳してビタミンDの内服治療が一般的ですが

骨密度低下高度例ではビスフォスフォネート製剤、テリパラチドといった薬剤も使用します。日本での論文では妊娠関連骨折は0.048%、脆弱性骨折は0.016% 脆弱性椎体骨折は0.0069% と推計されるとのことで頻度は低いのですが、妊娠出産で腰痛背部痛が増強した場合には整形外科にご相談ください。(X線ではっきりしなくても骨密度検査で低く、脊椎骨折が疑われる場合にはMRI検査をおこなうことで確定診断できます)

私達整形外科医が小児の診察をしてレントゲン写真を撮像するときに原則として両側撮像します。なぜかというと小児は骨の成熟度が年齢により異なるので、患側(痛い方)だけでは骨折や脱臼など微妙な病変を見逃してしまう可能性があるからです。骨の成熟の程度を暦年齢と対照したものを骨年齢といい、骨年齢は身体の成長度をより正確に表す指標になります。幼少期に手や足は軟骨成分が多く、その中心に骨端核という骨ができその周囲に骨ができていきます。小児期になると長管骨(上肢・下肢)の中枢と末梢部には骨端線という成長線(軟骨)がありそこで思春期にどんどん骨が作られ骨の成長が起こり、最終的に閉鎖します。(男性が17才、女性が15才頃)レントゲン写真で骨端線が閉鎖すると大人の骨と同じ形態になり身長の伸びも止まることがわかりますので、教えてあげるとがっかりする子もいます。最近の論文で1935年生まれの子供と1995年生まれの子供の手と手関節のレントゲン写真で、骨端線の確認と閉鎖、すなわち骨の成熟年齢が男性で7ヶ月、女性で10ヶ月早まっていたという報告がありました。この事実から近年の子供の骨格や性の成長が早まっていることが予想され、環境ホルモンなどの影響が示唆されています。子供の体格が大きくなっていることは実感しますが、骨の強度がそれに追いついていないことも最近の子供たちの骨折を診療して思う今日この頃です。