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山口経済レポート

院長が2013年から山口経済レポート(http://www.ykr.co.jp/index.html)に毎月掲載している過去のコラムを掲載しています。腰痛を中心に様々な整形外科の疾患や情報を発信していますので順次アップしていきます。

2022年4月に日本医学会連合からフレイル・ロコモ克服のための医学会宣言が発表されましたので紹介します。このコラムでも何回か取り上げてきましたが、改めておさらいすると、フレイルは2014年に日本老年医学会がFrailty の日本語訳として提唱し、老化に伴い抵抗力が弱まり体力が低下した状態で、2007年に日本整形外科学会が提唱したロコモ(ロコモティブシンドローム)は関節など運動器の機能が低下して移動が困難になる状態です。生活機能が低下し、健康寿命を損ねたり、介護が必要になる危険が約4倍高まります。身体的、精神・心理的、社会的問題を含む包括的な概念であるフレイルに対し、ロコモは 運動器の障害に焦点を絞っている点に特徴があり、概念としては身体的フレイルの中にロコモが含まれます。また対象年齢の違いがもう一つの特徴であり、フレイルでは高齢者を主 なターゲットにしているのに対し、ロコモでは年齢を限定していません。(子供のロコモもあります)

4つの宣言は➀フレイル・ロコモは、生活機能が低下し、健康寿命を損ねたり、介護が必要になる危険が高まる状態です。②フレイル・ロコモは、適切な対策により予防・改善が期待できます。③私たちは、フレイル・ロコモ克服の活動の中核となり、一丸となって国民の健康長寿の達成に貢献します。④私たちは、フレイル・ロコモ克服のために、国民が自らの目標として実感でき実践できる 活動目標として80歳での活動性の維持を目指す「80GO(ハチマルゴー)」運動を展開します、になります。フレイルの特徴として、疲れやすくなる、活動量が少なくなる、筋力が低下する、動作が遅くなる、 体重が減るがあり、これら5つの徴候のうち、3つ以上に該当する場合がフレイル、1-2つに該当する 場合がプレフレイル(フレイルの予備状態)で、口腔機能が徐々に 低下して生じるオーラルフレイルも含まれます。ロコモの判定には「立ち上がりテスト」、「2ステップテスト」、25個の質問票 「ロコモ25」により、ロコモが始まっているロコモ度1、ロコモ度2、ロコモ度3に分類されロコモ度3は「運動器が原因の身体的フレイル」に相当します。このような医学会全体での提言は珍しいことで、医学会が総力を上げて国民にフレイル、ロコモの概念を浸透させて健康寿命の推進に貢献するという決意表明と考えます。今後80GO(ハチマルゴー)がキーワードになるので記憶にとどめていただけると幸いです。

参考HP: https://www.jmsf.or.jp/activity/page_792.html

末梢動脈疾患(PAD)はこのコラムでも取り上げたことがありますが、そのガイドラインが日本循環器学会と日本血管外科学会から7年ぶりに改定されました。末梢動脈疾患とは冠動脈(心臓の血管)以外の四肢動脈、頸動脈、腹部内臓動脈、腎動脈、および大動脈の閉塞性疾患の総称です。日本人の65歳以上の3.4%、350万人以上と言われ、糖尿病患者では12.7%と頻度が高くなります。その中でも上肢の末梢閉塞性動脈疾患をLEAD、下肢の末梢閉塞性動脈疾をLEADと称し区別して分類し、特にLEADは頻度が高く重症化すると下肢壊死や切断につながる重要な疾患です。今回ガイドラインでは無症候性LEAD、間歇性跛行、包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)の3つに分類し、診断・治療の症候別アプローチを記載されています。PADは冠動脈疾患(心筋梗塞)や脳血管疾患(脳梗塞)に比べてはるかに国民の認知度が低いのですが、生活習慣病の治療されていても無症候性も多く、早期発見が遅れます。そのため、一般市民への啓発を目的として、市民・患者への情報提供も今回の改訂で新たに設けられました。足の冷感や間欠跛行(立位や歩行不可でふくらはぎの痛みで休憩必要)などがあれば早めに医療機関に相談してABI(上肢と下肢の血圧測定を行い比を取り0.9未満、1.4以上は異常、0.9-1.0未満は境界型)測定してもらうことをお勧めします。(ちなみに当院にはABI測定装置があり、フットケア指導士が私を入れて3人います)

奈良県生駒市に在住し歩行可能な65歳以上の高齢者を対象として5年間調査した縦断研究であるShiraniwa studyという研究を紹介します。2016年から409例の高齢者のBMIX線パラメータ、骨密度・骨折、筋量・身体機能、ロコモティブシンドローム(ロコモ度)、フレイル、サルコペニア、うつや不安の尺度を研究したものです。VAS 30mm以上の腰痛が39%という結果でした。高齢者の腰痛に不安、肥満、既存椎体骨折、脊柱インバランス(頭部が骨盤より前に偏移し後弯変形が進行)が大いに関与していました。ロコモ度2と体幹の筋力低下は脊柱インバランス進行に関与しており、1年以上の腰痛持続群では有意な体幹筋量の低下と抑うつの増悪が認められました。高齢者の腰痛に不安の強さが関連し、腰痛が続くと抑うつが強まるといった心理面における負のスパイラルが認められたことより、高齢者の腰痛対策では、心理面、身体面両面の負のスパイラルを断ち切ることが重要で、その手段として減量はロコモ度改善と関連しており、脊柱インバランス進行の抑制に寄与する可能性があり、有効な高齢者腰痛対策になるとのことでした。

高齢になると背中が曲がってくるのは脊椎圧迫骨折の既往があり、骨粗鬆症性であることを疑うのですが、骨折がない方でも体幹筋量、ロコモ度の低下でも背中が曲がってくるということから中高年における筋力増強が有効であることを示していますので効果的な筋力増強については整形外科医にご相談ください。

参考文献:(J Orthop Sci 2021; 26: 167-172

     J. Spine Res. 12: 759-765, 2021

近年痛みに関する研究が進んでおり、痛みという言葉の定義や概念が変化しています。痛みは生命を危険から避け、維持するために備わっている生体防御反応であり外敵や障害の対象が存在することで生じる感覚として認識されていましたが、国際疼痛学会によると痛みは感覚としてだけではなく情動(気持ち、感情)としても捉えるように変化しています。痛みは「からだ」から発生される警告信号であると同時に「こころ」から発せられる警告信号であるということも示されました。私たちが痛みを感じる時には外的刺激(打撲、切り傷、骨折などの外傷や熱傷、凍傷など寒冷刺激など)が痛みの伝導路を伝わり脊髄から脳に情報が伝わり痛みとして感じます。このような痛みは侵害受容性疼痛といいます。また痛みを伝える神経や脊髄、脳そのものに損傷が引き金になって生じる痛みを神経障害性疼痛といい、痛覚過敏(触っただけで痛い)なども特徴的です。この二つの痛みはある組織が損傷されて引き起こされた痛みですが、もう一つ痛みの原因がはっきりしない痛みを今までは心理社会的疼痛(心因性疼痛)といわれていたのですが、2016年に国際疼痛学会が組織の損傷がなくても生じる痛みを提唱しましたが昨年痛覚変調性疼痛という日本語訳に統一されました。これに伴い慢性疼痛(3ヶ月以上持続する疼痛)の分類も原因があるものを二次性疼痛と原因がはっきりしない一次性疼痛に分類されました。このような痛みの認識が今後の痛み治療に携わる医療従事者においては必要になりますので理解が難しいとは思いますがあえて紹介させていただきました。

 参考:日本ペインクリニック学会hp:

https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_bunrui.html#:~:text=%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82-,%E9%83%A8%E4%BD%8D%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%88%86%E9%A1%9E,%E3%81%AF%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%82%93%E3%80%82

厚生労働省の委託事業で職場における腰痛予防サイトがオープンして動画も見れたりパンフレットもダウンロードできるので紹介します。

介護や看護、保育などの保健衛生業に従事する方向けの動画と、陸上貨物運送事業に従事する方向けの動画があります。腰痛にはぎっくり腰、腰椎椎間板ヘルニア、椎体骨折などがあり、原因として転倒、転落、動作の反復や無理な動作により発生します。業務別には男性が多い建設業や製造業などより女性が多い介護職、看護業の方が発生率が高い(介護職員では84%)です。腰痛の発生要因には個人的要因、動作要因、環境要因、心理・社会的要因が複合的に関与しています。厚生労働省では職場における腰痛予防対策指針を出しており、原則として人力による人の抱え上げを行わないこと(以上補助機器などのノーリフティングの導入)、対象者に適した方法で移乗介助を行わせるなどの取り組み、具体的な作業を想定した腰痛発生要因のリスク見積もりとリスクの回避・低減処置(リスクアセスメント)を示しています。具体的には前屈み、腰の捻り、中腰などの不自然な姿勢が男性は体重の40%以下(体重60kgとして24Kg以下)、女性は24%以下(14.4kg以下)にすること、リフトや福祉機器の活用、パワーポジション(重量挙げの選手の姿勢やバレーボール選手のレシーブ動作で持ち上げる)などを推奨されています。腰痛予防のストレッチングは作業の前後に行うことが効果的です。東京大学松平先生が監修されたこれだけ体操として両手で骨盤を押さえて前に押し込むように息を吐きながら3秒腰を伸ばすストレッチなどを紹介されています。これだけ体操は職種に関係なくデスクワークが多い腰痛持ちの方にも是非おすすめですので是非お試しください。

https://yotsu-yobo.com/

https://www.youtube.com/watch?v=jEaOLzIfIi4

ロコモティブシンドロームは運動器の障害のため、移動機能が低下した状態で、重症化すると要介護状態になり、疫学的には約7000万人いると推測されています。このコラムでも中高年のみでなく子供のロコモも増加していることをお話ししました。東大の山田先生らの論文で8000人以上の日本人の結果が報告され、40歳以上では1歳ごとにロコモ になる危険度が高くなるという結果でした。BMI25以上の肥満、18以下のやせ、女性、高血圧、糖尿病、運動習慣(週に数回の運動)がないと、ロコモ の危険度が有意に高いことも報告されました。40歳という年齢、いわゆる働き盛りの中年からロコモ の危険度が高くなることは、社会人となり仕事中心、家庭中心の生活習慣で運動習慣がなくなることへの警鐘とも言えます。運動習慣はエレベーター移動を階段に変える、早足で歩く、散歩するなど行動変容により徐々に自分の生活時間の中に組み入れていくことが可能ですので、このコラムが、あなたの行動を起こす一歩になれば幸いです。ちなみにロコモ の予防としてロコトレ(片脚立ち左右1分を一日3セットとスクワット5-6回を一日3セット)を推奨しています。

 

 

参考文献 

Yamada K, et al. BMC Geriatr. 2021 Nov 19.

サッカー選手などスポーツ選手で運動時(ランニング、キックなど)股関節周囲に痛みを訴える疾患の中に鼡径部痛症候群があります。20才前後のサッカー男子が大半を占め陸上競技中・長距離、ラグビー、ホッケー、ウェイトリフティングなどの競技でも生じます。海外(特にドイツ)では一時スポーツヘルニアの診断で(いわゆる脱腸)手術を行われていました。(過去にジュビロ磐田の中山雅史選手も手術をうけていますが疾患理解が広まった日本ではスポーツヘルニアは非常に稀でありリハビリテーションによる保存的治療が原則です)

医学的な定義としては股関節周辺の 痛みの原因となる器質的疾患がなく、体幹 ~下肢の可動性・安定性・協調性に問題を 生じた結果、骨盤周辺の機能不全に陥り、 運動時に鼠径部周辺に痛みを起こす症候群となります。問診・診察を詳細に行い、

MRI、CTを撮像すると恥骨結合炎、内転筋付着部炎、上前腸骨棘、下前腸骨棘剥離骨折、腸骨・恥骨疲労骨折、股関節周囲筋肉離れ、真正鼠径ヘルニアなど原因が特定できるものも多いので原疾患に応じた治療を行います。一定期間のスポーツ休止が必要です。疼痛部位の局所安静(ランニング、キック禁止)、物理療法に加えて運動療法が奏功します。可動性、安定性、協調性の問題を評価し、それを修正するアスレチックリハビリテーションを行います。マッサージ、筋力訓練、協調運動訓練(クロスモーション)などが基本です。初期のリハビリテーションは股関節周囲の内転筋、伸展筋(大殿筋・ハムストリングス)、屈曲筋(腸腰筋・大腿直筋)、のストレッチングから開始して疼痛が消失しるのを確認しながら運動負荷を上げていきます。早期復帰はかえって再発を繰り返します。慢性化すると長期間(2~3ヵ月以上)スポーツ休止を余儀なくされるので注意を要しますのでスポーツで長引く股関節周囲の痛みに悩まれているアスリートの方は整形外科専門にご相談ください。

今回はコロナワクチンでも話題になったアナフィラキシーについて説明させていただきます。アレルギーの原因となる物質(食べ物、ハチ刺創、薬剤)が体に入り、複数の臓器や全身に症状がでることを「アナフィラキシー」と呼びます。その中でも血圧の低下(血圧90未満)や意識レベルの低下、失神など、重症の場合を「アナフィラキシーショック」と呼びます。

アナフィラキシーの症状には蕁麻疹、くしゃみ・咳、嘔気・嘔吐などから始まり、その後改善する場合もありますが、症状が進行すると呼吸困難、意識障害・脈微弱、動悸・冷汗が出現する場合には救急車を要請しつつ、点滴・酸素投与、アドレナリンの注射を行います。ズボンやストッキングの上からでもためらわず大腿の外側に筋肉内注射を行います。エピペンという注射キットがあり、小児で食事でアナフィラキシーを起こしたことのある人は常備しています。アドレナリンなどの処置が適切に行われれなかった場合、最悪の場合があるので侮れない疾患です。

慢性腰痛治療は急性腰痛のように一筋縄ではいかないことは整形外科であれば皆認識していますが、投薬、ブロック注射、運動療法を組み合わせてなんとか患者さんの痛みの軽減を図るよう工夫していますが、今回テレビゲームが慢性腰痛に効果があったことを報告した千葉大学の論文を紹介します。40例の慢性腰痛患者を経口薬のみ投与した20例(男性12例および女性8例、平均年齢55.6歳)と経口薬に加えてニンテンドースイッチのゲームソフトのリングフィットアドベンチャーの中のエクササイズゲームを週1回40分行った20例(男性9例および女性11例、平均年齢49.3歳)にランダムに割り付けた8週間後の結果は腰痛、臀部の痛みおよび痛みの自己効力感がリングフィットアドベンチャーエクササイズ群が有意に改善されましたが、痛みの破局思考や運動恐怖症といった心理スコアには有意な改善は認められなかったそうです。痛みの自己効力感とは達成をもたらすような一連の行動を計画し実行する 能力に対する信念と定義され,人がある課題を 遂行する際に自分の可能性を認識していることを指します。私も早速リングフィットアドベンチャーを体験しましたがリングを持ちながら押したり引いたり、歩いたり、走ったりで結構汗もかく事ができる優れたゲームソフトであると感心しました。慢性腰痛の患者さんがこのゲームをクリアすることが痛みの軽減につながる可能性がありますので、ゲームのやりすぎには他の弊害も出てきますが、拡張現実(VR)のような近未来のデバイスを使用できるようなプログラムにも期待したいところです。

 

参考文献 Sato T, et al. Games Health J. 2021 Apr 22. [Epub ahead of print]

 

前々回コラムで健康的な食事・運動習慣は幸福感や満足度を高めると記載しましたが、コロナ禍でいかに健康維持のための食事や運動のモチベーションを保っていくか?ということも重要と思います。ドイツの論文で40才以上の中高年5000人にアンケートを行い、自分が感じている主観的な年齢を記載してもらい、その後のストレスなどを含めた健康度を3年間追跡調査した報告で、自分が実年齢より若いと感じている人は自覚的なストレスの程度と健康レベルとの間に関連が認められなかったという結果から、主観的年齢にはストレス緩衝効果が働いているといるという考察をしています。一方で主観的年齢と実年齢との解離が大きすぎるのは健康上のデメリットもあると警告しています。夜間のジャンクフードを我慢したり、加糖飲料や当分の多いお菓子、飽和脂肪酸の多いバターなどをやめてダイエットをすることは健康維持、長生きできるためだけでなく、自分の若さを保つ効果もあることを知って、(人に言われるのも非常に効果があると思いますが、自分自身がそう思い込むことも効果があります)それをモチベーションにしてコロナ禍を過ごしてみてはいかがでしょうか?

 

参考文献:

Wettstein M, et al. Psychol Aging. 2021 May; 36: 322-337.