ベルサール半蔵門で日本体育協会公認スポーツドクター養成講習会応用編の二回目があり参加しました。筋力トレーニングの理論と実際について東京大学院の石井直方先生の講義がありました。筋力トレーニングの主目的は筋力増強と筋肥大であり、負荷強度や挙上動作によって筋持久力や筋パワーを高めることも可能ですし、傷害の予防やコンディショニングとしても有用です。筋トレの対象は子供から高齢者まで広がっています。
筋トレでは最初に遅筋線維が使われ力の増加とともに速筋線維が使われ、肥大するのは速筋線維です。筋トレにはマッスルメモリーという記憶があることもわかってきたそうです。
加圧トレーニングで筋血流制限により筋内低酸素化を生じることで成長因子を発現することで20パーセント1RMの強度で筋肥大筋力増加が生じますが、細いベルトで血管を圧迫することのリスクを伴うので、スロートレーニングを推奨されました。スロトレは最大筋力の30ー40パーセントで筋血流の抑制が起こり局所の加圧ではないので高齢者にも安全な方法です。
次いで肩関節のスポーツ外傷、障害について日産玉川病院の望月先生の講演がありました。肩関節外傷では肩鎖関節脱臼、肩関節脱臼の順に多いですが、肩関節脱臼は復帰までに時間がかかります。肩関節が脱臼すると前方のバンカート病変の損傷と骨が陥凹するヒルサックス病変が生じます。10ー20代での脱臼は再発しやすく、再脱臼率が55パーセントという報告があります。ラグビーのタックルでは約2000ニュートンの力がかかります。ラグビー選手ではタックルした時の痛みと不安定感がある場合にはCTで骨折がある場合があるので注意が必要です。肩関節脱臼の手術にはバンカート法に腱板疎部縫合、レンプリサージ法か烏口突起移行法(ブリストウ、ラタルジェ)に組み合わせる手技が多いです。ラグビー選手でバンカート法と腱板疎部縫合を行われた結果、3年で11パーセントに再脱臼があり、最近ではバンカート法にラタルジェ法を組み合わせて使用されているそうです。投球障害肩は肩関節の求心位が乱れるとインピンジメント症候群になりますが外転での痛みはほぼないそうで、最大外転外旋位で痛みを生じます。治療として胸郭のしなりと肩甲骨の可動性を上げるリハビリになります。こちらが機能しないと肘内側に負担がかかるようになります。肩甲帯機能障害のチェックとしてCAT陽性、HFT陽性(小円筋、棘下筋)をチェックします。
野球肩で保存的治療で復帰できたのが30パーセントで手術は数パーセントしかないとのことで肩肘に負担の少ないフォームの獲得をリハビリで指導することが重要とのことです。
次いで循環器疾患とスポーツについて聖マリアンナ大学の武者先生の講義を拝聴しました。心疾患を有する患者のスポーツの許容はスポーツ種目の運動強度を確認し、許容範囲判定にはスポーツに応じたメディカルチェックが必須です。動的、静的運動強度の共に低いレクレーションでのゴルフ、ボーリングなどは制限は少ないそうです。高血圧症のスポーツ可否条件として安静時160mmHg以上では高強度静的スポーツを避ける、スポーツ心臓を超えた左室肥大は血圧コントロールがつくまで競技を許可しないなどがあります。動脈硬化性冠動脈疾患では冠動脈疾患リスク評価を行い、軽度リスク群では軽度動的、中等度静的運動で競争しない場合には許可する、高度リスク群では低強度のスポーツに制限する、心筋梗塞、冠動脈再建術後は完全回復まで運動は禁止するそうです。肥大型心筋症は競技スポーツは避けるが趣味的スポーツは許可しますが拡張型心筋症では診断が確定したら競技スポーツは禁忌とのことでした。大動脈弁閉鎖不全は無症状の高齢者スポーツ愛好家の中にいる可能性があるにで注意が必要です。ペースメーカ挿入後はコンタクトスポーツは避ける、心室頻拍、先天性QT延長症候群、ブルガダ症候群は静的運動のみとなります。
国立スポーツセンターの奥脇先生の競技と安全対策の講義を受けました。競技種目、部位、年代、性などを考慮して起こりうるスポーツ外傷・障害を理解するとともに安全対策を立て実行することがポイント(想定、準備、実行)だそうです。。格闘技系、球技系、持久系の分類、スポーツ動作別では走る、投げる、打つ、泳ぐ、蹴る、跳ぶ、殴る、接触するなどを問診することが大事である。
脳震盪の評価はSCAT5があり、シーズン開始前にチェックして慢性硬膜下血腫に移行しないようにすることが重要です。閉眼で片脚立ちが20秒以下の場合には陽性であれば、最低二週は安静(リカバリー)後有酸素運動から開始して徐々に運動強度を上げ、コンタクトプレーはノンコンタクトトレーニングをしてからフルコンタクトに移行するそうです。又スクラムの組み方もクラウチ、バインド、セットの3段階にすると頭部にかかる衝撃を25パーセント軽減できるそうです。頚椎損傷、頸髄損傷の予防として水泳での入水角の制限やアメフトやラグビーでの頚椎X線側面像を撮影して脊柱管狭窄をチェックすることもされているそうです。学校スポーツでの頭頚部外傷の対策として起こりうる外傷を想定して対策をとるようにとのことでした。
テニスでは利き手の肩と反対側の股関節の可動域が狭くなると腰椎に負担がかかり腰椎疲労骨折が生じやすくなります。腰椎の可動域は回旋はできない(腰は捻れない)ので疲労骨折が生じやすい原因の一つになります。
又国際サッカー連盟ではFIFA11+という予防プログラムがあることも紹介されました。