脊髄再生の未来ー山口クロニックペインセミナにてー

7/20クリニック終了後に宇部で山口クロニックペインセミナーに参加しました。山口大学整形外科の鈴木先生が山口大学ペインセンターの現状と最近の取り組みについて講演されました。山口大学で取り組んでいる集学的治療について紹介されました。厚労省が慢性の痛み対策研究班と痛みセンター連絡協議会を介して山口大学にペインセンターが設立されたいきさつをお話しされました。整形外科と麻酔科 、神経科 、リハビリテーション科と看護師、ソーシャルワーカーがチームで慢性疼痛患者さんの治療に取り組まれています。鈴木先生は整形外科として器質的疾患の評価を担当されています。様々な痛み評価スケールを用いていますがiPad問診を用いておりデータ管理をされています。各科のDrとメディカルスタッフの合同カンファレンスで神経症状、評価スケールなど詳細に検討しておられるとのことでした。一年で28例の患者さんを入院治療されたとのことで難治性慢性腰痛の患者さんに対して運動療法ではセルフエクササイズを重視され、認知行動療法の実際やペーシングなど紹介され山口大学ペインセンターが取り組む地域連携に向けての取り組みや、海外のペインマネジメントセンターとの交流、慢性痛教育センター構想なども紹介されました。
次いで慶応大学整形外科の中村雅也教授が脊髄再生の未来ー臨床応用に向けてーという講演を拝聴しました。脊髄損傷の患者さんの脊髄再生が脊椎脊髄外科医の悲願でありますがその研究で日本のトップランナーである先生の講演を楽しみにしていました。我が国の高齢化社会に必要なものは、呆けずに動けるということ、すなわち麻痺と疼痛の克服が重要で、先生のキーワードは老化、再生、スポーツ外傷で基礎医学の底上げを行うことを教室の目標にされています。正常な脊髄の機能が加齢性変化が加わり軽微な外傷で損傷が生じる場合と正常な脊髄の機能がある一定の限界を越えると脊髄損傷に至る場合があります。脊髄損傷に対する再生医学の戦略として二次損傷を最小限に食い止めることなどがあり、脊髄損傷に関する中絶胎児の神経幹細胞移植が挫折した経緯と山中教授のiPS細胞を用いた脊髄再生への転換され、適切なiPS細胞株を用いれば長期に渡る運動機能の回復が獲得される動物実験の動画を見せていただきました。一方で危険なiPS細胞由来神経幹細胞移植後に腫瘍化することがあるので安全な移植をするのに非常に苦労されたそうですが、染色体に傷をつけない遺伝子導入法を用いて安全性を確立する工夫もわかりやすく説明されました。中村教授らが分化誘導法を確立され、臨床研究応用するため亜急性期完全損傷に対するiPS細胞移植が来年始まるそうです。脊髄損傷患者さんの軸索の評価を拡散テンソル投射路撮影を用いて錐体交差や皮質脊髄路、灰白質など選択的に描出できるそうです。神経線維比と脊柱管狭窄の関係を研究されたり、ミエリンマップの紹介やファンクショナルMRIで神経障害性疼痛の評価ができること、慢性期完全脊髄損傷に対して神経幹細胞移植にはリハビリテーションを併用する(HALなどのロボット工学)ことが重要であることなど熱く語られました。

 

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。