かかりつけ医研修会その二

脂質異常症は動脈硬化イベントの重要な危険因子です。LDLコレステロールが高いと動脈硬化性心血管疾患リスクが高くなり治療によりリスクを遅らせることができます。LDL-Cが140以上を高LDL血症、HDL-Cが40未満を低HDL血症、TGが150以上が高TG血症、non-HDLが170以上が高non HDL血症と診断します。糖尿病、慢性腎臓病、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患があると高リスク群になり、脂質管理目標値に基づいて治療します。食事療法は日本食推奨、過食防止、肉の脂身、乳製品摂取抑制、野菜、キノコ類の摂取増加、減塩、アルコール制限などがポイントになり、朝食欠乏は心血管リスクを高めるそうです。高LDL血症の食事療法では飽和脂肪酸摂取は目標量7パーセント、トランス脂肪酸摂取制限は1パーセントエネルギー未満、コレステロール摂取は200mg/dl未満を目指します。脂質異常症治療薬はスタチン、エゼチミブ、フィブラートなどは適応と有効性・安全性は確立していますが最近のPCSK9阻害剤は長期投与の安全性は確認されていないそうですがスタチンが効果不十分の場合にはこちらの薬も併用可能だそうですが腎機能低下例には気をつける必要があります。

高血圧症は日本で4300万人、治療しているのが56パーセント、有病率は男性24パーセント、女性20パーセントで心筋梗塞、心不全、脳梗塞の最大の危険因子です。診断手順は診察室で140/90以上あり、家庭で135/85以上で高血圧確定で、治療対象になります。家庭で135/85未満であれば白衣高血圧、135/85以上は仮面高血圧と診断し、こちらも要注意だそうです。140-159は1度、160-179は2度、180以上は3度高血圧で、降圧目標として若年、中年、前期高齢者は140/90未満、後期高齢者は150/90未満、糖尿病患者、慢性腎臓病患者は130/80未満、脳血管障害、冠動脈疾患患者は140/90未満とされています。生活習慣の修正として食塩制限一日6g未満、野菜・果物の摂取、減量、運動、節酒、禁煙があります。降圧薬はカルシウム拮抗薬、ARB/ACB阻害薬、サイアザイド利尿薬、β遮断薬があり、前三者のいずれかで効果なければ二者を組み合わせ、それでも効果なければ三者を組み合わせ、治療抵抗性の高血圧には4者を組み合わせて使用するそうです。又心房細動は約70万人で80才以上では3パーセントにあるそうです。脳卒中の発症リスクが4.8倍で治療は抗凝固剤です。又臨床イナーシャ(慣性、惰性)という高血圧、糖尿病、脂質異常症など自覚症状のない疾患で治療が十分行われていない原因で医療提供側、患者側、医療制度など多岐の問題が関与するとのことでした。

服薬管理に関して高齢者の緊急入院の3-6パーセントは薬剤が原因で高齢者では効き過ぎが多いとの結果が出ていますので投与量を減らす、投与回数を減らす、肝機能腎機能の検査、血中濃度の測定などで対処するとのことでした。ボリファーマシーという多剤服用対策として多種職連携が重要です。

禁煙指導について、喫煙率は男性30パーセント、女性10パーセントで1960年代男性が80パーセントだったのでかなり減少してきています。たばこの煙にはガンの原因になるものが70種類含まれており喫煙者本人への影響が大きいレベル1の疾患は口腔咽頭食道肺ガン、肝・胃・膵・膀胱・子宮ガンや脳卒中、歯周病、慢性閉塞性肺疾患、虚血性心疾患、腹部大動脈瘤などの因果関係が明らかとのことです。又受動喫煙による健康被害では先ほどのガン、喘息、乳幼児突然死症候群などがレベル1という結果でした。平成15年から健康増進法が施行され受動喫煙防止に関係する法令が初めて作成されたとのことでした。しかしながら世界的に受動喫煙規制状況は日本は米国、ドイツ、マレーシアなどと同じで禁煙場所の数が少ないので、法律が一部改正されて飲食店などの禁煙化が2020年4月に全面施行され加熱式たばこも分煙となるそうです。

健康相談は健康維持・増進活動(ヘルスメインテナンス:スクリーニング、カウンセリング、予防接種・投薬)、よろず相談、地域全体の健康増進など多岐にわたります。健診は健康であるか否かを確かめることで、特定の病気を早期発見治療する検診とは異なるそうです。健診はエビデンスはなく、検診はエビデンスがあるそうです。健康の社会的要因social determinants of healthにより健康格差が生じるそうですので地域全体の健康増進、スポーツ参加、社会とのつながりなどが重要であり、健康生成論という病気を治療することに加えて健康因を増やして貯金する考え方が必要であるとのことです。人類の最も貴重な資源である健康は値段がつけることができず、投資が必要であり、有り余って困ることはなく、投資で増やすことができ、浪費して枯渇することもあるので、健康を手に入れて何をするか?人生の目標を持ってもらい患者、地域住民の真の健康実現が医療者の最高の報酬であるということが印象的でした。
 

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。