日本臨床整形外科学会に参加、発表しました

7/14,15で神戸で開催された日本臨床整形外科学会に参加しました。今回私は二演題発表をしましたがやはり最新の知識を吸収することも目的としています。まず大阪大学整形外科の中田研先生のスポーツによるメカニカルストレスと炎症・関節痛を拝聴しました。スポーツにおけるメカニカルストレスについて、力学的ストレスがかかると過度にかかると疲労骨折など生じ、かからないと骨粗鬆症、サルコペニアなどに陥ることを実験で証明された結果を述べられました。ヒト半月細胞の力学ストレス実験により細胞骨格が変化するとのことでした。運動器疼痛にサブスタンスP、サイトカイン、プロスタグランジンE2、神経成長因子(NGF)などが関与しますが、力学負荷でマトリックス分解酵素の遺伝子発現が亢進し、プロスタグランジンE2の濃度は上昇するとのことでした。力学的負荷が加わるとMMP、ADAM、炎症物質が上昇して疼痛、IL6,8による滑膜炎が惹起され細胞外マトリックスが破壊され変形性関節症が発症するメカニズムを教えていただきました。半月板損傷の手術は以前は切除術が行われてきましたが二次的な変形性膝関節症を引き起こすことからなるべく温存するようになっています。前十字靭帯断裂の手術の約半数に半月板損傷の手術も行われていること、さらに新しいコラーゲン半月板を用いた半月板再生医療の実用化に向けての取り組みを紹介されました。

次いで行岡病院手外科センターの正富先生の上肢スポーツ障害の診断と治療の講演を拝聴しました。オーバーユース障害の中でも野球肘が代表的ですが投げ過ぎではなく、普通の投球で発症することが多々あります。コンディショニング低下から悪い投げ方によるそうですので成長に応じたトレーニングを行うことが重要とのことでした。普通の投球そのものがオーバーストレスになってしまう原因をノースローの段階で教育することが大事であることを教えていただきました。フォロースルーで痛いのは後方型野球、疲労骨折(骨端線閉鎖不全)、インピンジメントフラグメントなどが予想されます。インピンジメント対策としてフォロースルーの時に身体に巻きつけるようなフォームを指導するそうです。又ワイピングフェイステストで肩後方タイトネスのある選手が多いので側臥位でのスリーパーストレッチなどリハビリを行うそうです。リハビリしながら復帰をさせると選手の満足度も高いとのことでした。手術は骨棘があるだけでするのではなく、痛みや機能障害の状態を見て手術するそうですが頻度は約1割とのことでした。外反力による野球肘はレイトコッキングで痛くなり、体操選手にも多いそうですができる場所が異なるそうです。ほとんどは内側型で外側型の離断性骨軟骨炎単独は少ないそうです。不安定性のない内側型野球肘もあるので圧痛をしっかり見ることが重要とのことでした。内側型は成長終了時に骨癒合しますが疼痛を再発させないように復帰させること、肩後方タイトネスを改善することの重要性を教えていただきました。

又手関節痛では尺側部痛が多いですが有名なTFCC損傷より尺骨突き上げ、尺側手根伸筋が多く回外強制で疼痛誘発するテストが有効で腱鞘内注射(ブロックテスト)で診断確定するそうです。又有鈎骨こうぶ骨折と豆状骨骨折も鑑別が必要とのことでした。
午後から中条先生の新薬登場で変わるビスフォスフォネート製剤の役割〜医療倫理的観点からみた顎骨壊死問題も含めて〜現在の骨粗鬆症製剤はビスフォスフォネート製剤に代表される骨吸収抑制薬、テリパラチドの骨形成促進剤は骨吸収促進もあり、ロモソズマブの骨形成促進と骨吸収抑制効果のある薬剤に分けられます。テリパラチドは椎体骨折が新鮮例では先でビスフォスフォネート製剤より前に使用し、ロモソズマブはビスフォスフォネート製剤使用されていて効果のない例に使用するという使い分けをされるそうです。ビスフォスフォネート製剤内服が効果のないノンレスポンダーに静注製剤にスイッチする方法もありますがしっかり内服を遵守することも重要とのことでした。テリパラチドは野球に例えるとリリーフではなく新鮮骨折で早めに使用すべきとのことでビスフォスフォネート製剤は中高年で五年でスイッチ考え、デノスマブはロングリリーフ(途中でやめれない)とのことでした。顎骨壊死ですが以前のポジションペーパーでは最初3カ月の休薬を推奨されたのですが最近休薬は必要ないと改訂されましたが歯科医との相互理解が必要であることを強調されました。次いで慶友病院の岩本先生の骨粗鬆症治療におけるビタミンDの効果と役割〜日常診療における血清25(OH)Dの測定の意義を含めて〜の講演を拝聴しました。骨の健康維持のためにカルシウム、ビタミンD、ビタミンKが必要と言われていますがビタミンD充足度は先生のデータでは非充足群が98パーセントでした。(これは私の発表によるデータと一致しています)又慢性的ビタミンD不足は骨折リスクを増加し、治療で使用されるビスフォスフォネート製剤使用例ではビタミンDが不足していると治療効果が不十分とのことでした。天然型ビタミンD投与では効果不十分であり、活性型ビタミンDの方が効果が期待できるそうです。ビスフォスフォネート製剤と活性型ビタミンDの併用はカルシウムサプリメントを併用するより効果がありますが、腎機能高度低下例は高カルシウム血症の可能性があるので脱水に気をつけることということを教えていただきました。

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。