第99回 高齢者の腰痛対策

奈良県生駒市に在住し歩行可能な65歳以上の高齢者を対象として5年間調査した縦断研究であるShiraniwa studyという研究を紹介します。2016年から409例の高齢者のBMIX線パラメータ、骨密度・骨折、筋量・身体機能、ロコモティブシンドローム(ロコモ度)、フレイル、サルコペニア、うつや不安の尺度を研究したものです。VAS 30mm以上の腰痛が39%という結果でした。高齢者の腰痛に不安、肥満、既存椎体骨折、脊柱インバランス(頭部が骨盤より前に偏移し後弯変形が進行)が大いに関与していました。ロコモ度2と体幹の筋力低下は脊柱インバランス進行に関与しており、1年以上の腰痛持続群では有意な体幹筋量の低下と抑うつの増悪が認められました。高齢者の腰痛に不安の強さが関連し、腰痛が続くと抑うつが強まるといった心理面における負のスパイラルが認められたことより、高齢者の腰痛対策では、心理面、身体面両面の負のスパイラルを断ち切ることが重要で、その手段として減量はロコモ度改善と関連しており、脊柱インバランス進行の抑制に寄与する可能性があり、有効な高齢者腰痛対策になるとのことでした。

高齢になると背中が曲がってくるのは脊椎圧迫骨折の既往があり、骨粗鬆症性であることを疑うのですが、骨折がない方でも体幹筋量、ロコモ度の低下でも背中が曲がってくるということから中高年における筋力増強が有効であることを示していますので効果的な筋力増強については整形外科医にご相談ください。

参考文献:(J Orthop Sci 2021; 26: 167-172

     J. Spine Res. 12: 759-765, 2021

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。