5/10クリニック終了後宇部のアナクラウンホテルで慢性疼痛セミナーに参加しました。山口大学整形外科の寒竹講師の「慢性腰痛症の治療の現状と課題」について拝聴しました。日本の腰痛治療の現状について話され、運動器慢性疼痛治療の現状調査の結果、疼痛ありが15パーセントで2000万人以上で、女性に多く、30〜50才に多く、大都市の方が多く、デスクワークの方が多いという結果でした。治療は診療所が60パーセント、民間療法が20パーセント、半数が未治療で1/3は現状に満足していないという結果でした。患者満足度に関してはマッサージなどの民間療法の方が高いという結果も示されました。慢性腰痛は侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛(65パーセント)、心因性疼痛の混合であることを念頭において治療に当たる必要があります。2016年の神経障害性疼痛薬物治療のガイドラインでSNRI(セロトニンーノルアドレナリン再取り込み阻害剤)であるドュロキセチチンが推奨されており、作用機序や副作用について教えていただき、慢性腰痛症でNSAIDSの効果不十分、腰部脊柱管狭窄症の神経障害性疼痛でリリカが効果不十分の時に適応があるとのことでした。慢性腰痛症の運動療法については高いエビデンスがありますが特定の運動は推奨されていないのが現状ですが、日本でも背筋、腹筋訓練と臀筋ハムストリングのストレッチを組み合わせてNSAIDSと同等の効果を有した日本のLETスタディを紹介されました。
ついで島根大 学整形外科の内尾教授の「変形性膝関節症の薬物治療の有効性と課題」の講演を拝聴しました。日本の高齢化率は27、5パーセントで都会で今後増加してきます。運動器疼痛の中で変形性膝関節症の割合が腰痛の次に多く、メカニカルストレスが関節軟骨に影響を与え、関節裂隙は年々狭小化してくるとのことでした。変形性膝関節症の患者さんの疼痛は膝痛が初発症状で立ち上がりやしゃがみこみなど日常生活に支障を与え、62パーセントが家事に支障をきたし、半数が家族に迷惑をかけると考えていることがわかってきました。膝痛とX線重症度と必ずしも相関せず、日常生活動作の制限とも相関しない結果がわかってきました。膝痛の疼痛管理は重要で疼痛メカニズムとしてメカニカルストレスと炎症性メディエーターが関与しています。膝の外ぶれなども良い例だそうです。関節痛は侵害受容性疼痛が主体ですが慢性刺激による感作があることや膝の関連痛もあること、膝周囲の痛覚過敏があることなどは下降性疼痛抑制系の関与が考えられ、変形性膝関節症の患者さんは下降性疼痛抑制系の機能低下を生じており疼痛残存の原因となり、このメカニズムについて整形外科医も認識不足、認識の乖離があり、痛みの原因を医師から年のせいと言われたり、筋肉の衰えと言われるとあきらめ、苛立ち、不安を有すると治療満足度が低くなり、痛みの破局的思考が生じると痛みの慢性化を生じやすくなります。変形性膝関節症の患者さんの希望は除痛であり、薬物治療で痛みを和らげると運動療法ができるようになります。変形性膝関節症の薬物療法においては初期の痛みにはコックス2阻害剤などはNSAIDSで対処しますが(SMOADS)3ヶ月以上の慢性疼痛には下降性疼痛抑制系を賦活するドュロキセチチンなどの選択肢を考えるとのことでした。デュロキセチチンは当初はうつの薬でしたがうつを除外した直接鎮痛疼痛抑制効果も証明されました。内尾教授は変形性膝関節症発症初期にはNSAIDS、ヒアルロン酸関節内注射を行い3ヶ月以上経過して疼痛の取りきれない方にデュロキセチチンの適応があり、それでも取りきれない時にオピオイドを考えるという薬物治療体系を提示されました。