第63回 腰痛治療において牽引療法は有効か?

腰痛や頚部痛で通院したことのある方であれば腰椎牽引、頚椎牽引を経験されたことのある方は少ないないと思います。2001年の日本整形外科学会の調査では神経症状のある腰痛に対する保存的治療は牽引療法は1位であり、神経症状がない場合でも温熱療法に次いで2位でした。腰痛治療において牽引療法は有効か?ということに関しては2012年日本腰痛ガイドラインでは有効であるエビデンスが不足しているということでグレードIでした。最近の前向き研究で腰椎椎間板ヘルニアで明確な受傷機転があり、症状の持続期間が短く、腰痛の既往が10回未満の場合は短期的に日常生活の質が改善するものが多いという報告もあります。また米国では急性腰痛(1ヶ月以内)の5%、亜急性腰痛(1-3ヶ月)の31%、坐骨神経痛を伴う急性腰痛には30%に牽引が実施されている報告があり、頚部痛では77%、神経根症状のある患者には93%牽引が実施されている報告があります。海外でもエビデンスが乏しいとはいうものの実際には実施されていますがこれには患者さんとの関係構築に役立っているとのことですので患者満足度を高めるための手段として使用されているという意味合いではないかと思います。牽引の効果には後方椎体間の離開によるストレッチと可動域改善が期待できる機械的効果と椎菅孔の拡大による神経生理学的な効果があるので、即時的効果は期待できますがあくまでも効果が一時的であるということを認識する必要があります。

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。