第49回 イップス(Yips)

イップスという言葉を最近よく聞くことがありますが、ご存知でしょうか?子犬が吠える、という意味で集中すべき場面において、プレッシャーのために極度に緊張することが原因で震えや硬直を起こしてプレイのミスを誘発することです。1930年代に活躍したプロゴルファーがこの症状によって引退を余儀なくされたことで知られるようになりました。イップスはスポーツでは野球、ゴルフが多いのですが、そのほかのスポーツ全般と武道にも生じます。特に野球では正確なコントロールが求められる投手、内野手に多く、四球や暴投などのトラウマからイップスに陥ることが多いようです。武道では弓道、アーチェリーなど弓を引いて弦を離せなくなったり(もたれ)、弓を引いて矢をすぐに発射してしまう(早気)症状が有名です。イップスを生じやすいのは真面目で責任感が強く、心優しい選手ほど生じやすく、気を使うが、普段はあまり緊張しない人が多く、逆に緊張しやすい人はならないことが多いです。医師へのアンケート調査でスポーツで51%が経験したという報告もありますので決して稀な症状ではありません。治療としては失敗した場面を直視して、徐々に成功体験を積み重ねること、医学的には慢性腰痛でもエビデンスのある認知行動療法になります。症状のきっかけによって考え方が動かされ、感情や行動が出てくる(認知再構成)ので、その考え方を変化させることで結果として出ている症状(行動や感情)へ介入して、再発を予防します。イップスになって、今まで当然できていたことが出来なくなり、周りの理解が得られないことが一番辛いことでありますが、これには本人がイップスになったことを自覚して(あるいは周囲のコーチなどが把握して)周囲に打ち明けたり、周囲の理解と手助けが重要になります。スポーツの場面だけでなく、普段できていた仕事、手技が出来ない場合に一人で悩まずに、イップスではないか?という意識を持っていただければ幸いです。

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。