非特異的腰痛(一般的な腰痛)を姿勢や動作に起因する腰痛と心理社会的ストレスによる脳機能の不具合に起因する腰痛に分けると、治療に難渋するのは後者の腰痛です。恐怖回避思考とは、腰痛になったことで将来さらに腰痛が悪化するのではないか?もう治らないのではないか?、と悲観的に考えてしまう結果、腰を必要以上に動かさない、いわば腰を過保護にしてしまう考え方です。
欧米の研究では恐怖回避思考がその後の腰痛の回復具合に悪影響を与えることが分かっており、通常の消炎鎮痛剤などでは治療効果が乏しいことが分かってきました。特にこの恐怖回避思考に影響を及ぼすのが、医療従事者から腰痛の時は安静にするように指導されたり、労働災害で生じた腰痛です。
ぎっくり腰などの痛みの体験に、安静にしなさい、といった脅迫的な情報が入ったり、本人がネガティブな感情を持つと、腰痛に対して悲観的な解釈をしてしまい、腰痛への不安や恐れが生じ、過剰な警戒心を持ったり、腰痛を引き起こす動作を回避する行動をとるようになり、腰の機能障害を引き起こしてしまったり、うつ傾向になったりするといった、痛みの悪循環が形成されます。
私たち医療従事者は患者さんがこの恐怖回避思考による悪循環に陥らないように、腰痛に対する正しい情報や患者さんを励ます態度をとることで、不安や恐れがないよう状態を目指し、腰痛と楽観的に向き合えるようになると経過・回復に導くことが必要になります。
参考図書
松平浩:腰痛対策最前線第5回 東京 法規出版「地方公務員 安全と健康フォーラム」2015
松平浩:腰痛は「動かして」治しなさい 講談社+α文庫