第10回 特異的腰痛について

代表的疾患とその診断と治療-その5感染性脊椎炎について-

見逃してはならない疾患の代表的なもので脊椎腫瘍と双璧をなす疾患です。 感染性脊椎炎とは感染によって生じる脊椎、椎間板炎の総称で、感染源となるのは細菌が最も多いのですが、結核菌(脊椎カリエスといいます)や真菌も少数ながらあります。

また最近では高齢者の罹患例が多く、糖尿病や腎透析など抵抗力や免疫力の低下した患者さんが罹患する場合、MRSA菌など難治性の例も増加しています。原因としては血行感染が多いのですが原因がはっきりしない場合もあり、早期診断、早期治療が最も重要です。早期診断のためには腰痛に先行する発熱(微熱の場合も多く、痛み止めが処方されていると熱が出ないケースもあります)があれば積極的に感染を疑い,血液検査で白血球、CRPという炎症反応を調べて白血球、CRPが高いの場合は感染を疑います。私が経験したケースでは抗がん剤の治療後、腹部,頚部手術後、点滴のカテーテルより血行性に感染した場合もあり、他科での治療中・治療後に発熱を伴う頑固な腰痛、頚部痛(進行した場合は上下肢麻痺例もあり)も積極的に疑う必要があります。X線、CT検査では初診時異常がない場合もあります。これは感染の初期は骨破壊がない場合が多く、1ヶ月以上経過しないと変化がでないこともあり、MRIが最も有用性が高いです。MRIでは椎体をはさんで、椎間板に信号変化があり,周囲に膿瘍(腸腰筋膿瘍)を作る場合もあります。診断の確定のためには椎間板、椎体穿刺による菌の同定検査が必要で、できれば抗生剤を使用する前の検査が望ましいとされます。治療は抗生剤とベッド上安静の保存的治療が原則です。菌の同定が判明するまでは、できるだけ広域な抗生剤を使用し、菌の同定後はその菌により治りやすい(感受性が高い)抗生剤に変更します。私の経験でも細菌感染として治療していて、菌の同定で真菌が検出され,抗真菌剤に変更したり、結核菌が出て急いで変更したことはありますので、いかに早期に診断するかがおわかりかと思います。最近では高齢者が多くなり,長期安静臥床を行うと廃用性筋萎縮を生じ、脊椎炎がよくなっても、治った頃には下肢筋力が低下して歩けなくなったりすることがないように、早期積極的治療を行うこともあります。

しかしながら侵襲の大きい手術は患者さんの負担も大きいので、局所麻酔で椎体、椎間板の生検と同時に行う経皮的病巣掻爬術も行われます。これは局所麻酔で椎間板内組織を切除、洗浄し、術後もドレーンをしばらく留置して膿を出す方法で、これにより安静臥床期間を短縮することができます。大きな腸腰筋膿瘍が生じた場合にはCTガイド下にドレナージを行い,ドレーン留置して治療することもあります。さらに難治性の場合、麻痺が生じたり、骨破壊が大きい場合には、手術が行われることもあります。手術は前方掻爬、骨移植術(骨盤より自家骨移植)を行うことが多いのですが、早期離床ができないことから、最近では後方より金属を挿入して前方固定を行う場合もありますが、まだ一定の見解は得られていません。いったん感染が生じると長期間は長期(3ヶ月以上)になることが多いので、早期診断、早期の低侵襲治療が望ましいと考えます。

ワンポイントアドバイス 感染性脊椎炎の早期診断には血液検査、MRIが最も有用です。

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。