代表的疾患とその診断と治療-その2腰部脊柱管狭窄症-
腰部脊柱管狭窄症は腰部の中の神経が圧迫され、局所の血流が障害されることにより脚のしびれ・痛み、歩行障害などを来す一連の症候群です。腰椎椎間板ヘルニアとの違いは、椎間板ヘルニアは座っているといたみが強くなりますが、脊柱管狭窄症は立ったり歩くと足の痛みや痺れがつよくなります。これを間欠跛行といい、立ち止まってしゃがんだり前屈みになったりすると症状がやわらぐのが特徴です。
腰部脊柱管狭窄症の推定患者数は約 240 万人(40 歳以上人 口の 3.3%)で,実際に腰部脊柱管狭窄症と診断されている患者さんは推定 65 万人(31.5%)といわれています。
2006年に北米脊椎学会(North American Spine Society:NASS)の腰部脊柱管狭窄症ガイドラインにもとづき、日本整形外科学会と日本脊椎脊髄病学会の監修により2011年11月1日に刊行された診断基準(案)として、1.おしりから下肢(脚)の疼痛やしびれを有する、2.立位や歩行の持続によって殿部から下肢の疼痛やしびれが増強し、前屈や座位保持で軽快する、3.歩行で増悪する腰痛は単独であれば除外する、4.MRIなどの画像で脊柱管やう椎間孔の変性狭窄状態が確認され、臨床症状を説明できる、という4つの条件をすべて満たすこととしました。
腰部脊柱管狭窄症の自然経過は1/3ないし1/2では自然経過でも良好な予後が期待できます。腰部脊柱管狭窄症を診断するために有用な病歴および診察所見は患者が中高齢で、座位により改善あるいは緩和する下肢痛がある場合は腰部脊柱管狭窄症の可能性が高く、歩行時に下肢痛が増強しなければ、腰部脊柱管狭窄症の可能性は低いとのことでした。
薬物治療では経口プロスタグランジンE1(オパルモン、プロレナールなど)は神経性跛行ならびに両下肢のしびれを伴う馬尾症状を有する腰部脊柱管狭窄症の治療に短期間は有効であり、下肢痛を主訴とする神経根症状には消炎鎮痛剤(NSAIDS:ロキソニンなど)、最近ではプレガバリン(リリカ)も有効です。ブロック治療には神経根ブロックと硬膜外ブロックがあります。神経根ブロックは神経に直接針をあてて痛み止めを浸潤させますので、神経にあたった時や痛み止めを浸潤するときに痛みを伴うことはありますが痛み止めの効果はすぐ出ます。硬膜外ブロックは腰の骨の間か臀部のほうから薬液を神経の周りに浸潤させる方法ですので皮膚の上から針を刺した時のいたみはありますが薬液が入るときには痛みはほとんどありません。根ブロックは、どの神経が原因かという診断的意味あいと、ブロック後どれぐらい効果が持続したがということが手術適応を決める指標にもなるので、当院でも積極的に行っています。
手術は画像と神経の症状が一致しており、保存的治療に抵抗する患者さんに限って行いますが、手術のタイミングは患者さんの生活の質を上げる目的ですので、個々に相談して決めることとなります。間欠跛行や足の麻痺が急に進んだり、尿の出具合がどんどん悪くなる場合には早めの手術が必要です。腰部脊柱管狭窄症の手術治療成績に影響する因子は高齢という理由だけで手術回避を強く勧める理由とはならないこと、手術治療の長期成績(4年以上)は4~5年の経過では総じて患者の70%~80%において良好であるが、それ以上長期になると(加齢による脊椎の病態や他の関節疾患の影響なども加わり)低下することも念頭に置くことも必要です。私は患者さんに手術の説明をする場合には、手術でよくなる症状は、動いたときに新たに出る症状についてはよくなる可能性が高いですが、じっとしているときにもある症状、たとえば足の裏にもちを貼付けたようなしびれはなかなかとれない場合もあります、と説明していましたが、手術後間欠跛行はよくなってもしびれがとれないために患者さんの満足度が低くなることも経験しており、手術前の説明と患者さんとの信頼関係が重要と考えます。