慢性疼痛を考える会があり参加しました。オープニングリマークで田口先生が鎮痛薬のミニレクチャーをされました。2000年までに消炎鎮痛剤が多数発売されましたが慢性疼痛での治療薬として発痛の場から機能の治療へとシフトしてきたとのことでした。最初に山口大学整形外科の神経障害性疼痛の診断と治療についての講演がありました。痛みについての基礎知識、神経障害性疼痛の機序と薬物治療、慢性疼痛患者に対する集学的アプローチのお話でした。痛みとは不快な感覚、情動体験であることであり、慢性痛の定義としては通常のケガの回復する期間を超えても続く痛みで、器質的要因に心理社会的要因が加わって発症します。ストレスなどの機能的原因で痛みは生じ、疼痛顕示行動により医学的評価が可能になります。慢性疼痛は約20パーセント存在し運動器の慢性痛は15パーセントを占め30-50代の働き盛りの世代に多いそうです。腰痛の原因として様々ですが侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛のオーバーラップする混合性疼痛が多いとのことでした。神経障害性疼痛は神経が異所性放電、下行性疼痛抑制系の低下、中枢神経が過敏になり、神経の異常放電により生じるとのことで、診断ツールとしてペインディテクトというツールも紹介されました。アロディニアのメカニズムとして神経損傷による異所性放電やエファプス伝達により生じるそうです。神経障害性疼痛の薬物として代表的なプルガバリンや新しく出たミノガバリンがあります。山口大学では慢性の痛みに関する教育プログラムを構築しており、ペインセンターとして慢性疼痛の講習会を行っていることも告知されました。次いで獨協医科大学麻酔科の山口教授のガバペンチノイドの可能性と課題についての講演を拝聴しました。帯状疱疹後神経痛では神経プロックと薬物療法を併用します。フランス外科医の言葉で時々治療する(プロック)、しばしば和らげる(薬物)、いつも元気づける、ということを紹介されました。先生は患者さんと会話しながら痛みを伝える経路と痛みを抑える経路のどちらを薬物治療するという痛みの病態に合わせた薬物治療を提供するというスタンスで接しておられるそうです。慢性疼痛、神経障害性疼痛に対するオピオイド治療は一定のエビデンスがありますが4-12週以上は好ましくなくアメリカではオピオイドクライシスとも言われているそうです。神経障害性疼痛のオピオイド治療は最近のガイドラインは限定的で短期間にすべきと言われているとのことでした。ガバペンチノイドは神経障害性疼痛における第1選択薬になっています。NNTは4で四人に一人が効くとされていますがNNH(副作用)は6人に一人ぐらいとされています。副作用は眠気、めまい、容量依存性などがあります。プレガバリン、ガバペンチンに加えて新しく出たミノガバリンは末梢性神経障害性疼痛に適応があり、容量調節ができる工夫がされていますが腎機能の低下している患者さんには容量を減らす必要があります。効果は同じですが副作用の頻度は少ない(プレガバリンの約半分)とのことで最大容量まで増加できたのが約8割であったので有効投与量まで増量しやすい可能性があるとのことでした。慢性疼痛治療薬の内服のポイントとして適応を広げていい薬物で効かなければ中止するということが必要とのことでした。慢性疼痛に慢性的に投薬していないかを自問することを提案されました。慢性疼痛患者に痛くても動きましょうという根性論ではなく、プロック、薬物、励ましなどにより良くなったら投薬を減量していき、理想的には中止することを考える、痛みが改善したら減量、中止する方向を考えること、薬が余ったら中止のタイミングである、投薬を中止する言葉がけも紹介され、投薬を中止してもずっと診ていきますというスタンスをお話しされました。内服開始三カ月後に効果判定、6カ月後に中止判定を行うことを提案され参考になりました。最後に投薬をやめられないという患者さんを診てこられて、慢性疼痛治療に対して過干渉にならない、多剤併用にならないことを踏まえる必要があるとのことでした。慢性疼痛におけるオピオイド治療と薬物依存症との関係を紹介され、病気を診るのではなく患者を診て、居心地のいい場所を提供するという先生の姿勢を垣間みました。
最後に済生会山口総合病院の岸本先生が10年前まで消炎鎮痛剤がほとんどであった疼痛治療が新しい薬物により選択肢が広がりましたが神経障害性疼痛の治療のミノガバリンについては適正に使用すして効果を見ていくこととして締めくくられました。