日本体育協会公認スポーツドクター養成講習会応用科目3の二日目

日本体育協会公認スポーツドクター養成講習会応用科目3の二日目です。日本福祉大学の小林先生のアスレチックリハビリテーションを拝聴しました。通常のリハビリが日常生活への復帰を目標にしますがアスレチックリハビリテーションにおける到達目標は競技の禁止の判断と元の競技に完全復帰することです。外傷発生要因や主訴と動作の関係(スポーツ動作と位相特に動的アライメント)が重要で、下肢の外傷障害に関係するニーイン(片足スクワット、ジャンプ後着地時のニーイン)、動的アライメント、肩肘外傷障害に関係する肘さがりの投球、全身的な運動連鎖などチェックすることを教えて頂きました。アスレチックリハビリテーションで用いるのは物理療法、徒手療法、補装具療法、運動療法があります。スポーツ復帰にあたり競技種目特性を理解して、再発予防するリスクマネジメントも重要です。action →semi-reaction →reaction、リカバリー(疲労回復)についても教えて頂きました。
次いで神戸大学の黒田先生のスポーツ外傷障害の最新情報4 膝を拝聴しました。半月板損傷の診断には関節の腫れと関節裂隙の圧痛が特徴で徒手検査は感度が低いそうです。疑えばMRIを撮影しますが画像も100パーセントではないです。半月板切除後の復帰は最速で2カ月から半年かかることがあるという説明が必要です。外側半月板部分切除後に早期復帰させると軟骨が剥がれて水腫が続くことを注意されました。半月板切除後の変形性膝関節症になる可能性があるので半月板縫合術が望ましいが復帰に半年かかり、再手術率が切除術の5-10倍あり相談して決定する必要があります。離断性骨軟骨炎は成長期は成長期は保存的治療が第一選択ですが外側円板状半月板に合併することがありますが、円板状半月板部分切除術後に離断性骨軟骨炎が続発することもあるので注意して定期的観察する必要があるそうです。離断性骨軟骨炎の治療はドリリングによる骨髄刺激、モザイク処理プラスティー(骨軟骨柱移植)、ジャック(自家培養軟骨細胞移植)がありますが術後2年では成績に差がないそうですがスポーツ復帰率はモザイク93パーセント、ジャックは82パーセントでスポーツ復帰はモザイクが半年、ジャックが一年かかるので患者とよく相談する必要があります。膝蓋骨亜脱臼は10代女性に多く、Jサイン、MRIで骨挫傷の所見がありCTで関節内骨折などを確認します。初回脱臼の94-100パーセントで内側膝蓋大腿靭帯の損傷で骨軟骨損傷が34パーセントあるそうです。PCL(後十字靭帯)損傷は単独損傷では保存的が第一選択になりますが複合損傷の場合には手術(再建術)になります。ACL(前十字靭帯)損傷は外傷性関節血腫の60-70パーセントに合併し、ピボットシフトテスト陽性になります。手術して復帰率は82パーセントありますが以前と同じレベルまでの復帰は50パーセント未満だそうですので厳密な復帰プログラムが重要です。保存的では早期に変形性膝関節症になることが多くピボットシフトテスト陽性が20パーセントあるそうです。
順天堂大学の桜庭先生のスポーツ外傷障害の最新情報5 スポーツ選手の疲労骨折を拝聴しました。疲労骨折は女子長距離ランナーに多く発症しエネルギー摂取不足、無月経、骨粗鬆症に伴って生じる(女性アスリートの3徴)ことが多いです。実業団女子長距離ランナーの33パーセントに無月経があります。骨吸収、骨形成マーカーが高く高回転型の骨粗鬆症を呈している可能性があります。早期診断には骨シンチ、MRIが有用です。
午後から国際武道大学の山本先生のテーピング、ブレースを拝聴しました。山本先生はアスレチックトレーナーマスターだそうです。テーピング、プレースは応急処置や再発予防、外傷の予防に使用し、あくまでも補助用具で長所短所を理解して使用する必要があります。可動域を制限して痛みを軽減し、機能をサポートして不安を軽減する効果があります。テーピングは神経血行障害に注意する必要があります。運動の30-60分前に運動後30分以内に外し、試合の都度巻き直す必要があります。足関節内反捻挫後のテーピングは足関節の背屈底屈を制限せずに回内回外を制限する機能的なテーピングが必要です。ファンクショナルテーピングも紹介されました。
テーピングは伸縮性と非伸縮性があります。非伸縮性テープは13,19,20,25,38,50mmがあり、伸縮性テーピングは25,50,75mmがあります。アンカーが剥がれないようにビニルテープ、ロイコテープなどがあります。非伸縮性テーピングをアンカーのみ巻き他を伸縮性テープで巻くと背屈底屈を制限せずに内外反を制限できるそうです。他にもカバーロール、自着性バンデージなども紹介されました。
最後に帝京大学の山口先生のスポーツとアレルギー疾患を拝聴しました。サーファーがクラゲに刺されて感作されると納豆のネバネバで喘息、アナフィラキシーが誘発されるそうで興味深かったです。運動誘発喘息は小児喘息が半数以上で運動中の過換気で浸透圧の上昇で気道が収縮し、気道が再加温されて気道が閉塞することが原因です。日本ではアスリートの喘息有病率は15パーセントと言われています。(成人で5.4パーセント)予防としては運動30分前に気管支拡張薬の吸入と心肺機能の強化が必要です。ドーピングにかからないように吸入ステロイド薬、ベーター2刺激薬は申請が必要とのことでした。スポーツ用具、ウェアの素材や化学物質、テーピング、外用薬による接触性皮膚炎もあり、発汗と日光が原因物質の抗原性を高め重症例にはステロイド経口も投与されるそうです。食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIAn)という疾患があり、エビカニ、コムギ、ソバ、大豆、ブドウ、リンゴ、ピーナッツなど果物、タマゴアレルギーが運動でアナフィラキシーが誘発されて鎮痛剤や月経、身体精神的ストレスが増悪因子になるそうです。コムギと魚を食べて実はアニサキスが原因のことが多いことは初めて知り勉強になりました。治療の第1選択がアドレナリン(ボスミン)筋注であり、アナフィラキシーが起こったアスリートはエピペンを常備しておくことが必要だそうです。

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。